研究概要 |
和歌山県有田地域では,地域ブランドへの信頼維持のため高品質なミカンを毎年安定的に生産することが懸案となっている.これに対処するには,マルチングにより蒸発や雨水浸入を制御した上での少量頻繁灌漑,すなわち,ある種のPrecision Farming的な綿密水管理が有効であり,灌水の適時適量に資する計画の提案が重要と考えた.そこでここでは,実際のミカン樹園地計4園を対象に調査を行い,高品質ミカンの生産に資する灌漑諸元の確立のための基礎的アプローチとして,同生産に適した果樹の水分ストレス状態が維持される土壌水分域を,葉,土壌,大気それぞれの水ポテンシャルを関連づけることにより評価した.これは,これまでの畑地灌漑において供給水量の重要な算定基礎となっているRAMの概念を見直し,高品質作物の形成に寄与する新たな水分領域指標EMhq (Effective Moisture for high quality)を見いだすためである.さらに,このEMhq水分域の維持に適した1回の灌水量および間断日数を日本の畑地灌漑計画で用いられる手法を応用して推定し,対象園での灌漑実績と(収穫果実品質を勘案し)比較したところ次のような知見が得られた. ・EMhqを考慮すべき作土層は,土壌水分プロファイルの変化および根群分布状態からおよそ40cmで十分である. ・高品質ミカンとしての基準を満たす果実が収穫された果樹園の灌漑水量は,推定された推奨灌漑水量と日当たり平均ではほぼ同様であるが,間断日数は推奨値の方が実績より長くなる傾向が見られる.このことから,現行の少量頻繁灌漑より間断日数と1回の灌漑水量を増やしても高品質果実が得られ省力化が期待できる可能性が示唆された. ・傾斜地果樹園と平地果樹園との間には,土壌水分動態や果実品質に顕著な差は認められない. なお,対象園での果樹の生育状況から,果実生産の持続的な安定性については,さらに実証的な検証を行っていく必要があると判断された.
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