研究課題/領域番号 |
19580286
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大澤 啓志 慶應義塾大学, 総合政策学部, 専任講師 (20369135)
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研究分担者 |
嶺田 拓也 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究所, 主任研究員 (70360386)
大久保 悟 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30334329)
楠本 良延 独立行政法人農業環境技術研究所, 生物多様性研究領域, 研究員 (30391212)
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キーワード | 生物多様性 / 農村計画 / 農村ランドスケープ / 半自然草地 |
研究概要 |
農村ランドスケープにおける一つの典型性を有する棚田景観の生物生態的意義を考察した。棚田が他の地勢の水田と本質的に異なる点として、その原植生が主に中性〜乾性の樹林地と考えられることが特筆され、棚田の形成は山間部・山麓における原植生とは異なる半自然的な湿性空間の創出と捉えることができる。伝統的形態を留める棚田を生物生息空間として俯瞰すると、(1)地形の起伏に沿った多数の小規模な水田区画すなわち浅い陽光の一時止水域の存在、(2)上下の水田間の半自然草地としての法面もしくは石積の存在、(3)周囲を樹林地に囲まれるパッチ状か少なくとも上端で樹林地に広く接していること、が特徴的である。また、土披型の棚田では、水田に隣接して幅広い法面畦畔草地が生じることが平地域の水田との大きな違いである。この棚田の水田と畦畔の半自然草地を利用する代表的な生物群の一つとしてニホンアカガエルを対象に,千葉県鴨川市大山千枚田での利用実態を事例調査した。その結果、高い生息量が認められ、特に成体は活発に活動する5〜7月の湛水期では畦法面が畦平坦面の1.6〜1.9倍の個体数密度であった。本地区では、繁殖期に水域が広く形成されるため繁矩空間が確保され、また、その繁殖空間である水田の周囲に非繁殖期の生活空間である半自然草地すなわち畦畔草地が広く存在することが、本種の高い生息量を支えている理由と考えられた。本棚国は水田間の土坡部に法面草地が広く取られるのが特徴であり、この畦畔法面の草地は水田耕作管理(畦畔の保守管理,年数回の草刈等)に伴い維持されてきた。耕作管理に伴う半自然草地の維持形成は、ニホンアカガエルの陸上生活において十分な空間の規模とその多様性を提供してきたといえる。本地区のように早春期に水域形成が得られる棚田は、本来的には樹林地となる立地にも関わらず、人為開墾により本種の良好な生息空間となってきたと推察される。本研究では、棚田の文化景観に埋め込まれた形で小動物が生息し続けているごとを明らかにした。
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