研究概要 |
農村の生物多様性に関して定義・議論した欧米圏の論文や政策をレビューし、農業生物多様性の保全と管理のためには、農民の存在とその知識や文化も保全の対象や管理を考える際の重要な要素として位置づけられていることを明らかにした。この「農村社会と不可分のものとしての生物多様性」が国際的にみても農業生物多様性の本質であり、それを前提とした農村計画学における生物多様性保全の方針を試論した。まず、農村計画における生物多様性保全の位置づけを提示し、次に農村計画学が扱うべきランドスケープの範囲を明確にし,最後に農村計画学の役割・機能の視点より地域類型ごとに農村の生物多様性保全の評価軸について試論した。特に重要な論点として、農村の生物多様性を、それを育む農村社会・生態システムの弾性・健全性の一評価軸として捉え、地域類型と(1)食料供給、(2)多面的機能(特に保全生物学的役割)、(3)生活圏創出(農村住民にとっての土地利用の秩序化)、(4)共生空間の地域管理(生物多様性を介した農村-都市交流)、(5)文化的・生態的価値の5つの評価軸を設定して,それぞれにおける生物多様性の利用と保全の方向性を整理した。 一方、我が国の農村ランドスケープを特徴づける水田生態系について、べースとなる本来の自然立地条件を、水田開発史の整理とともに行い、地生態的区分に基づいた水田生態系基盤の類型化を試案した。そして、想定される類型ごとに、保全や再生の目標や指標となりうる植物種群を検討した。さらに、指標生物として平地水田、谷津田、棚田ごとの両生類相の特徴を整理した。
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