中国江蘇省江都市郊外の実験水田で、微気象環境の自動測定を行うとともに、ライシメータによる実蒸発散量の測定と、気孔コンダクタンス、植物体面積密度、群落内部の日射透過率、植物体表面温度などの鉛直分布を手動測定した。手動測定は、7月28日-8月5日と8月28日-9月5日に実施した。 オゾン濃度([O_3])を人工的に上昇させたFACE水田と対照水田で、植物体面積の鉛直分布を比較した結果、FACE水田において緑葉が少なく赤斑点を持つ葉が多く、高[O_3]が植物の生育に影響を与えたと考えられた。両水田で測定した気孔コンダクタンス(gs)の鉛直分布を比較すると、FACE水田においてgsが小さかった。このことからオゾン曝露の積算効果がgsに影響を与えるという従来の知見が検証された。また、両水田における植物体表面温度(放射温度)の鉛直分布を比較すると、FACE水田のほうが高かった。これはgsが低いすなわち蒸散量が少ないためであると考えられた。 両水田におけるgsの測定結果を用いて、光合成有効放射、飽差、オゾン曝露積算量および[O_3]の関数による気孔コンダクタンス・サブモデルを構築した。このサブモデルを組み込み、微気象環境・[O_3]・各フラックスの鉛直分布およびオゾンの吸収過程を再現する多層モデルを構築した。モデル計算値は、微気象観測による測定結果とおおむね良く一致し、モデルの有効性が検証された。 モデルにより、高[O_3]の葉内蓄積(障害としての蓄積)が気孔コンダクタンスを低下させ、個葉蒸散量が低下するとともに、葉面積が減少するため水田蒸発散量が低下することが明らかになった。またこれと同時に、植物体温度が上昇するため、気温上昇につながると予測された。このように、微量ガスである[O_3]の上昇という大気環境の汚染によって温度が上昇すると予測された点が、本成果の重要な点である。
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