Campylobacterによる下痢症(食中毒を含む)は先進諸国の細菌性下痢症の主要な原因とされている。しかし、Campylobacter下痢症と診断された患者から分離保存されていた菌株を分子生物学的手法で再同定すると、Arcobacterと同定される場合のあることがベルギーで報告されている。Campylobacterも下痢の発症機構は充分には解明されてはいないが、Arcobacterについては殆ど知られていない。本年度の研究で、鶏肉から分離したArcobacter butzuleri菌株がヒト大腸由来培養細胞であるCaco-2細胞に対して侵入性を示すことおよび菌体抽出液が培養細胞の空胞化や多核化等の形態異常を惹起する(以下細胞毒性という)ことを明らかにした。一方で、細胞への侵入や細胞毒性は、乳酸桿菌やビフィズス菌の添加により低下することが示された。C.jujuniの場合、細胞への侵入には細胞骨格タンパク質のうち、微小管やミクロフィラメントの関与が示されている菌株もある。そこで、cytochalasin-Dやcolchicine等細胞骨格タンパク質の再構成阻害剤が.A.butzleriの細胞侵入性や乳酸桿菌およびビフィズス菌による侵入阻害作用に与える影響を試験している。また、C.jejuniの例に倣って、タイトジャンクションの健常性の指標である経上皮電気抵抗値(TER)や炎症反応の指標であるサイトカイン類に与える影響も試験している。
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