ヒトロタウィルスは乳幼児に重篤な下痢症を引き起こす病原体であり、途上国では年間およそ60万の死者、先進国でも毎年多数の入院患者をもたらす原因となっていることから、有効な感染防御法の確立がグローバルな検討課題となっている。本研究では、ヒトロタウィルス感染を強力に阻害する作用を示す牛乳ラクトフォリン(LP)の構造とウィルス感染阻害機能の相関を分子レベルで明らかにすることを目的としている。本年度はLPの結合糖鎖のウィルス感染阻害活性への関与について検討した。 定法にしたがって牛乳からプロテオースペプトン画分を調製した後、ConAアフィニティークロマトグラフィーを用いてカラム結合画分(BO)としてN型糖鎖含有成分を分離した。LPに対するモノクローナル抗体である1C10を用いたイムノブロットによりウィルス感染阻害活性成分である18kDaのLP成分がBO中に存在することを確認した。また、サル腎臓由来細胞MA104とヒトロタウィルスMO株を用いたウィルス中和活性測定により、このBOのウィルス感染阻害活性が最小阻害濃度(MIC)〜10μg/mLであることを明らかにした。次に、N-Glycosidase FによるN型糖鎖除去がウィルス感染阻害活性に与える影響を調べた。その結果、この処理により阻害活性がほぼ失われたことから、LPのウィルス感染阻害活性にはN結合糖鎖が不可欠であることが明らかとなった。さらに、シアリダーゼを用いてシアル酸除去の影響を調べたところ、この処理後のBOの活性はMIC〜1μg/mLとなり、N型糖鎖の末端シアル酸の存在はLPの示すウィルス感染阻害活性をむしろ妨げる可能性のあることが示唆された。 以上、18kDaのLPの示すヒトロタウィルス感染阻害活性には、(1)N型糖鎖が必須であること、(2)末端シアル酸は無用であることを見出した。
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