現在、日本産野生動物の多くの種が危機的な状況にある。しかも、すでに野生下で絶滅したトキやコウノトリなどでは、生息域外(飼育下)での保護増殖に頼らざるを得ないのが現状で、今後もこうした野生動物種は増加していくと見られる。そこで、本研究は、これらの飼育下繁殖した個体を野生復帰手法の確立を目的として、野生復帰に必要な技術的および社会的手法の検討を行うものである。 今年度は、国内の希少動物保護繁殖関連施設(シマフクロウ、アカガシラカラスバト、コウノトリ、トキ、ツシマヤマネコ、ヤンバルクイナなど)の専門家によるネットワークを形成し、今後の研究体制を確立した。また、以下の研究を実施し、一定の成果を得た。 1.野生復帰技術、とくに野生化に欠かせない採食や繁殖の行動に関わる訓練技術に注目して、わが国で実施されているトキおよびコウノトリにおける事例のデータを収集し、解析を開始した。また、飼育集団の遺伝的多様性の確保が重要であることから、国内希少動物の遺伝管理に必要なスタッドブック(血統登録簿)の収集を開始した。 2.国内外において絶滅危惧種の回復行動計画策定で実績のあるIUCN/SSC/CBSG(国際自然保護連合・種の保存委員会・保全繁殖専門家グループ)によるPHVA(個体群および生息地存続可能性評価)ワークショッププロセスをわが国の実情に即して適用し、日本型の手法を確立することを目指して、2008年1月に東京都小笠原村においてアカガシラカラスバトを対象に試行的なワークショップを開催し、行動計画の策定を行なうことができた。
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