牧場経営が野生動物に及ぼす影響を評価するため、調査対象牧場内に自動撮影カメラを設置し、牧場を利用する動物相の把握をおこなった。その結果、コウモリ類を除く11種の野生哺乳類の生息が確認された。さらに、牛舎で給与される濃厚飼料の盗食行動を牛舎に設置したタイムラプスビデオにより記録した。その結果、イノシシ、タヌキ、キツネによる盗食が確認された。イノシシ、タヌキは、カメラによる撮影頻度ではニホンジカ、キツネ、アナグマ、ノウサギに次ぐ値を示し、牧場内での活動頻度と比べて盗食行動の出現頻度が高く、濃厚飼料に誘引され易い種とみなすことができた。一方、ニホンジカやノウサギは牧場内での高い出没頻度にも関わらず盗食行動が認められなかったため、濃厚飼料に誘引されにくい種とみなすことができた。イノシシ、タヌキについて盗食行動の出現傾向を牧場内での出没傾向と比較したところ、イノシシでは盗食行動が日中にも多く出現し、タヌキでは盗食行動が深夜に近い時間帯により多く出現するなどの特徴が認められた。牧草に対する盗食行動が顕著なニホンジカを対象に、牛の放牧がニホンジカの牧草地への出没抑制に効果を示すか否かについて、自動撮影カメラによる既存データをもとに解析した。その結果、ニホンジカの牧草地への出没頻度と牛の放牧強度との間に関係は認められず、牛の放牧がニホンジカの牧草地利用に対して抑制効果を示す結果は得られなかった。さらに、タヌキによる濃厚飼料の盗食実態と野生個体への影響(栄養、繁殖)を明らかにするために、盗食現場である牧場内でタヌキの死亡個体を回収し、試料を蓄積した。また、体脂肪の指標となる生体抵抗値を測定する携帯型装置(人体用)を入手し、端子をタヌキの測定が可能なものに改良した。試験的に測定を行い、最も安定した値の得られる測定部位や試料個体の体位を明らかにし、測定手法と実施手順を確立した。
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