【目的】鶏精子は体温付近の40℃で運動を停止し、温度を下げると動き出す。これを温度による可逆的な不動化現象と称している。この現象は、精子内の運動調節に関与する細胞内シグナル伝達系のいずれかが変化を受けることによって引き起こされると考えられている。しかし、このメカニズムの詳細については不明な点が多い。本研究は、細胞内のプロテアソーム(多機能プロテアーゼ)に着目し、これが鶏精子の運動調節に関与しているか否かについて検討したものである。 【方法】供試精子は、白レグ成鶏から採取・混合し、TES/NaC1緩衝液(pH7.4)で洗浄したものである。プロテアソームの阻害剤としてAM114を、26S複合体によってユビキチン化されたタンパク質の分解を抑制するMG132を使用した。 【結果】0~10μMのAM114あるいはMG132を添加して10分後の正常精子の運動性は、30℃では全ての濃度域で40%前後の運動性を示した。40℃では、全ての濃度域において精子は不動化現象を起こし、運動は抑制されたままであった。除膜精子の場合、30℃ではAM114及びMG132添加区ではいずれの濃度域とも50~60%前後の運動性を示した。30℃において、AM114あるいはMG132の存在下でのCa^<2+>添加後の精子の運動性は、AM114添加区のみCa^<2+>添加後に有意に抑制された。40℃では、両阻害剤添加区において、Ca^<2+>添加後に運動性は回復したが有意に抑制されていた。反対にCa^<2+>存在下での阻害剤添加では、30℃において有意な運動抑制効果は見られなかったが、40℃では阻害された。カリクリンAを用いた同様の実験では、両区間に差異は認められなかった。同様に、カリクリンA存在下での両阻害剤の添加により運動性は抑制されたが有意差は観察されなかった。一方、除膜精子において、EGTA添加により精子の運動性は低下したが、阻害剤添加の有無にかかわらずCa^<2+>添加後に運動性は回復した。以上の結果から、プロテアソーム阻害剤であるAM114とMG132が鶏精子の代謝に関係なく運動性に何らかの影響を及ぼしているものと推察された。
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