Oct-3/4遺伝子は初期発生過程の細胞において特異的に発現するので、クローン胚におけるその発現は、体細胞核におけるリプログラミングの指標となり得る。そこで、Oct-3/4遺伝子プロモーターに発光遺伝子であるenhanced green fluorescent protein(EGFP)を結合したプラスミドをクラウン系ミニブタ胎児線維芽細胞に導入した。これらの遺伝子導入体細胞を用いてクローン胚を作出した結果、培養4〜6日後に得られた桑実期胚のすべてと5〜6日後に得られた胚盤胞の88.9%において、EGFPの発現が観察された。しかし、培養7日後に得られた胚盤胞においては、EGFPの発現は観察されなかった。 4mMのバルプロ酸で24〜48時間処理することにより、クローン胚の胚盤胞形成率が改善された。無処理のクローン胚においては、培養5日後に得られた桑実期胚および胚盤胞の66.7%においてEGFPの発現が観察されたが、培養7日後の胚盤胞においてはその発現が失われた。対照的に、4あるいは10mMの濃度で48時間および4mMの濃度で72時間処理した場合には、培養5日後に得られた桑実期胚および胚盤胞の86.7〜100%において観察されたEGFPの発現が、培養7日後に得られた胚盤胞の41.0〜99.3%においても維持された。 以上の結果から、ミニブタ体細胞クローン胚におけるリプログラミングの状態を非侵襲的に判定し得るシステムが確立された。また、バルプロ酸は、ミニブタ体細胞クローン胚の体外発生を改善し得ることが明らかとなった。さらに、バルプロ酸は、移植後の体細胞核におけるリプログラミングに影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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