本研究の目的は、消化管炎症性腸疾患に伴うPAR-2脱感作の分子メカニズムを解明することにある。PAR-2の消化管炎症における生理的・病態生理的役割の詳細は解明されていないが、炎症性の疾患において、その発現ならびに機能がダイナミックに変化し、炎症と密接に関係することは示唆されている。本研究において、PAR-2脱感作機構が解明されることにより、新たな視点に立った炎症性腸疾患の創薬につながる事が期待される。 今年度の研究では、実験的腸炎ラットモデルを用いて、PAR-2脱感作に関与するサイトカインの特定を行った。炎症を起こした消化管では粘膜層のみならず平滑筋層において、IL-1β、TNF-αならびにIL-6のmRNA発現が増加したが、 IFN-γの発現量に大きな変化は認められなかった。また、IFN-γを除くこれらのサイトカインはタンパクレベルでも増加していることが確認された。しかし、摘出消化管を用いた免疫染色でこれらサイトカインの産生細胞の特定を行っているが、まだ確定されていない。一方、炎症性サイトカインIL-1βとTNF-aを同時に3日間処置したところ、単独処置に比してより強いPAR-2脱感作が認められた。また、この時、iNOSおよびCOX-2の発現増加が見られた。そこで、NO合成酵素阻害薬ならびにシクロオキシゲナーゼ阻害薬を培養液中に添加したところ、IL-1βとTF-αによるPAR-2脱感作は阻害された。これらの結果より、炎症性腸炎におけるPAR-2脱感作機構には、 IL-1βとTNF-αが関与しており、その機構には、NOや抑制性プロスタグランジンが関与することが示唆された。
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