研究初年度に当たる平成19年度は、味蕾の単離培養法の確立に向けて研究を行った。味蕾の単離培養は、哺乳類ラットにおいて、Lindemannら(1990)およびAbeら(2001)によって近年報告された手法である。我々の研究グループは、ラット、ブタおよびニワトリでその培養系の確立を試みた。トリプシンインヒビター、ディスパーゼおよびコラゲナーゼ処理を行なった口腔内上皮から、実体顕微鏡を用いて味蕾に相当する組織をマイクロピペットにより吸引採取し、コラーゲン被覆したディッシュ中の培地に播種した。ラットおよびニワトリにおいて、直径50μm程の味蕾様組織を単離することができた。ガストデューシンは哺乳類味細胞特異的G-タンパク質であり、甘味、苦味およびうま味の味覚伝達に関与することが知られている。このガストデューシンに対する抗体を用いて、単離した味蕾様組織に蛍光免疫組織化学的手法を施すと、味蕾内のある群の細胞が特異的に染色されることが証明された。すなわち、今回得られた細胞塊は、味蕾であることが証明された。一方、同時に行なったブタ舌を用いた味蕾の単離培養の試みについては、上皮組織の剥離までは可能であったが、味蕾の単離は実現しなかった。今後、さらに試行錯誤を繰り返し、味蕾の単離培養法の確立に努めたい。研究最終年度に当たる、平成20年度は、この単離培養味蕾を用いて、種々の味刺激物質に対する、応答反応をカルシウムイメージング技術によって、可視化することを研究の主眼とすることになる。なお、ニワトリにおいては、口腔内における味蕾の分布を知るために、分布図の作成を試みた。ニワトリをと殺後、口蓋、口腔底および舌の試料をグルタールアルデヒドにより固定し、凍結乾燥後、走査型電子顕微鏡で観察し、味蕾の存在が、味孔の同定により確認できること、そして分布図が作成できることを明らかにした。この成果は味と匂学会誌およびAnimal Science Journalに投稿し、前者は、すでに掲載され、後者に受理され現在印刷中である。
|