本年度では、成熟脂肪細胞から樹立した脱分化脂肪細胞(DFAT)に由来する神経系細胞を脊髄損傷モデルへ移植することによって、それら神経系細胞が移植部位において生着および分化するかを明らかにする目的で行なった。マウスおよびラット皮下脂肪組織から成熟脂肪細胞を単離し、天井培養により脱分化を誘導後、DFATを作製した。まず、得られたDFATの神経細胞分化能についてin vitroで検討した。次いで、重錘落下(10g、2.5cm)法により作製した外傷性脊髄損傷モデルラットに脱分化脂肪細胞の移植注入を行なうことによって、後肢運動機能をBasso Beattie Breshnahan (BBB)スコアで経時的に評価した。さらに移植細胞の生着および分化について脊髄切片を用いて免疫組織染色を行なった。成熟脂肪細胞を天井培養すると脂肪滴が培養期間の経過に伴って消失し、線維芽細胞様の形態を示すDFATが得られた。DFATを神経細胞へと分化誘導すると、神経様の細長い突起および丸い細胞体を有する形態へと変化し、神経細胞特異的な遺伝子およびタンパク質を発現した。また、脊髄損傷モデルラットに脱分化脂肪細胞の移植を行ったところ、BBBスコアの改善および損傷部位での移植細胞の生着や神経細胞への分化が認められた。本研究の結果は、神経再生療における新規の移植ドナー細胞として成熟脂肪細胞が有用であること、また今後ヒトでの応用も期待できること示唆している。
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