本研究の第一の目的である草食動物消化管内に生息する繊毛虫類のデータベース作製に関しては、今年度新たにゴリラ、チンパンジー、インドサイの材料を採取した。これらについて標本作製、同定、デジタル画像撮影を進めた結果、いずれの宿主にも複数の新種が存在することが明らかとなった。とくにチンパンジーから得られた小型の繊毛虫は形態学的特徴が著しく、新科の設定も視野に入れるべきものと考えられ、系統学的に興味深いものであった。インドサイから見られた繊毛虫については、これらが鍍銀染色により、ウマの繊毛虫に近縁であることが明らかにされたが、多くの新種を含んでおり、それらの新種記載の準備を進めている。一方、当研究室に保存されていたラクダ、トナカイ、アフリカゾウの材料について、既知種のデジタル画像撮影を終了した。アフリカゾウについては、なお新種の存在が疑われたことから、引き続いて検討を続行中である。ウマ、カピバラ、ニホンシカの大腸内原虫についてはデジタル画像によるデータベース化を行いつつある。分子系統学的検討に関しては、単一種採取が比較的容易であり、かつ、このグループの系統関係の解析に重要な情報を提供すると思われたウマ大腸内に生息するBlepharocorys属繊毛虫について、計画した方法に従って虫体からの遺伝子抽出を行い、電気泳動により、これまでに明らかとなっているこのグループに属する繊毛虫種とほぼ同様の1.9kbpのバンドが確認された。現在、シークエンサーを用いて塩基配列を測定中である。また、アフリカゾウの大腸に見られるTriplumaria属繊毛虫についても遺伝子解析に必要な個体数がほぼ得られている。
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