各種動物を固有宿主とする糞線虫種(Strongyloides spp.)を収集し、18SリボソームRNA遺伝子(rDNA)ならびにミトコンドリアDNAのCOI領域を中心に遺伝学的情報の集積を図った。特に、ヒト糞線虫S. stercoralisとサル糞線虫S. fuelleborniについては、国内とともにアフリカ大陸(タンザニアとガボン)での材料を検討した。18S rDNAにおいて、種間変異の大きいループ領域を特定し、種の鑑別上の有用性を確認した。アフリカ大陸からの帰国者で糞線虫症日本人患者の感染源特定を試み、チンパンジーを固有宿主とする糞線虫S. fuelleborniの感染があったこと、従来形態分類学的に単一種とされてきた旧世界ザル寄生のS. fuelleborniに、顕著な地理的な遺伝学的変異があることが示唆された。経皮感染する糞線虫類の感染性決定において、宿主皮膚と寄生虫産出酵素との関係に注目したが、微少な虫体を集めての酵素解析はうまくいかなかった。そこで、より大型で、皮膚と同様の重層篇平上皮からなる食道粘膜に寄生するGongylonerna属食道虫(シカやウシに寄生する美麗食道虫Gongyfonema pulchrum)を用いての解析を試みることにした。国内のシカやウシから収集した美麗食道虫の特徴づけを行い、重層扁平上皮内を移動する寄生線虫の酵素解析を行う準備を進やた。
|