研究概要 |
多様な生物において様々な機能が報告されているオートファジーが、数年以上に及ぶ彼らの一生を数日間の吸血3回程度で生存しうるというマダニの特徴的な飢餓耐性を支えるために消化管上皮で機能していると考えた。そこで、消化器官である中腸におけるマダニ自身の「生存基盤」となる消化のメカニズムを解明する一環として、(1)オートファジーがどのようなタイミングで起こっているかを明らかにし、それが(2)マダニ類の飢餓耐性に関してどのような役割を果たしているかを解明することを本研究の目的とした。研究協力機関において確立されているマダニの臓器別ESTデータベースをもとに、これまでHlATG12に加えHlATG3,HlATG4,HlATG8というオートファジーに関わっていると考えられる重要ないくつかのホモログの発現を確認してきた。そこで、本年度はさらにReal-time PCRによってこれらが吸血期よりも未吸血期により高い発現を示すことが明らかにし、他の動物で示されているのと同様にATG8 conjugation systemが未吸血期のダニにおいて機能していることが示唆された。組織学的には未吸血期の中腸において上皮細胞には脂肪やグリコーゲンの蓄積が認められ、消化器官である中腸の上皮細胞が貯蔵のためにも働いている可能性をも示した。当然ながら、オートファジー関連遺伝子の発現と共に、オートファゴソーム様細胞内小器官などの存在も確認されていることから、顕著な飢餓耐性を持つマダニの飢餓ステージにおいて明らかにオートファジーが栄養状態改善に機能しているという我々の仮説を十分に裏付けるものであった。一方で、直接的な消化以外のマダニの脱皮や卵形成など多くのイベントとオートファジーの発現には予想以上に複雑な関係があることが明らかになってきたため、さらなる詳細な解析を続けていく。
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