本研究は、ボツリヌス毒素が家畜の腸管上皮からどのようにして吸収されるかを明らかにし、家畜、特にウシのボツリヌス中毒予防法の開発、生産性向上に寄与することを目的としている。申請者らは、ラット小腸上皮細胞株であるIEC-6を用いて、ボツリヌス菌D型4947株が産生する、神経毒素(BoNT)を含む750kDa毒素複合体(L-TC:BoNT+非毒非血球凝集素NTHA+血球凝集素HA)の結合・透過に関与する糖鎖を解析した。毒素の透過量はIEC-6をトランスウエルの多孔質膜上に播種して測定した。BoNTとL-TCのIEC-6に対する結合量および透過量を調べたところ、L-TCの結合量および透過量のほうが多かった。L-TCの細胞への結合は、N-アセチルノイラミン酸の添加、およびノイラミニダーゼ処理による細胞膜上のシアル酸の切断によって抑制されたが、ガラクトースやラクトースの添加による影響は受けなかった。また、L-TCの構成成分であるHA-33/HA-17複合体の細胞への結合と透過もN-アセチルノイラミン酸の添加、およびノイラミニダーゼ処理により抑制された。以上の結果から、L-TCは小腸上皮細胞膜上のシアル酸に結合して透過すること、またL-TCは構成成分であるHA-33を介してBoNTより効果的に細胞に結合することが明らかとなった。本研究により、ウシ食餌成分に糖類を添加することで腸管からの毒素吸収を抑制できる可能性が示唆された。本研究で得られた知見は、ウシボツリヌス症の予防、感染蔓延防止法の確立のために大変有用であると考えられる
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