研究概要 |
犬色素性表皮母斑(CPEN)は、特定犬種に好発する稀にしか発生のみられない非腫瘍性増殖性皮膚病変であり、CPEN関連PVの関与が証明されている。また、CPENは時に腫瘍性病変への転化を示す。しかしながら、CPEN病巣におけるCPEN関連PVの生活環は明らかにされておらず、腫瘍化病巣内でのウイルス遺伝子の存在の有無や、存在する場合はその一部が宿主細胞のDNAに組み込まれて存在するのか、或いは全長を有してエピソームとして核内に存在するのかという存在様式も明らかになっていない。そこで、先ず、2例のパグのCPEN病巣に対して、CPEN関連PVのE6およびL1遺伝子領域を標的としたDNA in situ Hybridization (ISH)法を行った。その結果、CPEN病巣内の基底細胞核内では、陽性反応は点状であったが、角質細胞が表層に向かって分化するのに伴って陽性反応は核内を充満するようになり、CPEN関連PVも、感染細胞の分化に伴ってウイルスの複製が行われるという、一般的なPVと同様の生活環を持つことが示された。次ぎに、CPEN病巣から腫瘍性病変への転化がみられた3例のパグの病巣に対して、PV遺伝子が宿主細胞のDNAに組み込まれた場合に欠損することが知られている遺伝子領域を網羅できるように5つの遺伝子領域(E2, E6, E7, L1およびL2)を標的としたISH法を行った。その結果、3例中1例の腫瘍病巣(Bowen様病巣)内の腫瘍細胞の核内に、5種類全てのプローブで点状の陽性反応を認めた。その他の2例では、ウイルス遺伝子は、腫瘍巣内の胞巣中心部の一部の細胞でのみ検出された。以上のことから、CPEN病変から腫瘍病変への転化にはCPEN関連PVが深く関与しているものの、腫瘍化病巣内ではCPEN関連PVは、遺伝子の全長を持ってエピソームとして存在する、或いは消失しており、活発なウイルスDNAの複製は行われていないことが示された。
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