レプトスピラ症は病原性レプトスピラLeptospira interrogansの感染に起因する、人と動物の共通感染症である。そのため、犬レプトスピラ感染の地理的分布を明らかにすることは、公衆衛生上有益であると考えられるが、これまでに全国的な調査はない。そこで、本研究では全国的な犬レプトスピラ抗体保有状況を明らかにするとともに、MATと組み換えOmpLlを抗原としたELISAを比較することを目的とした。 本研究では、全国47都道府県から収集したレプトスピラワクチン未接種または最後の同ワクチン接種から1年以上経過した犬の血清を対象に、5血清型標準株を抗原とするMATならびに組み換えOmpL1蛋白を抗原とするELISAを行った。MATでは、801頭中217頭(27.0%)で陽性を示し、これらは43都道府県で認められ、犬レプトスピラ抗体を保有している犬が全国的に広く分布していることが明らかとなった。しかし、ワクチン接種歴とMAT陽性率には正の相関が認められ、ワクチンに含まれる血清型でMAT陽性率が高く、またワクチン接種群でMAT陽性率が高かった。さらに、MAT陽性群は陰性群に比べ、ワクチン接種日から血清採材日までの期間が有意に短いことから、ワクチンによって産生された抗体が本研究のMATの結果に強く影響している可能性が示唆された。一方、組み換えOmpL1を抗原としたELISAでは801頭中29頭(3.6%)で陽性を示した。MATに対するELISAの感度と特異性はそれぞれ5.5%、97.0%であり、感度は著しく低かったが、MAT陽性検体におけるワクチン接種による抗体保有の影響を考慮すると、ELISAの結果が、実際の感染による抗体保有を反映している可能性が強く示唆された。
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