レプトスピラ症は人と動物の共通感染症であり、自然界における保菌動物はげっ歯類をはじめとした野生動物であると考えられている。伴侶動物である犬は人への重要な感染源となる可能性があり、野生動物と犬のレプトスピラ感染の関連性を検討することは、臨床獣医学および公衆衛生学上重要であると考えられる。本研究では近年、個体数の急激な増加が問題となっている野生アライグマのレプトスピラ感染状況を明らかにすること、野生アライグマと家庭飼育犬のレプトスピラ感染との関連を検討することを目的として調査を行った。関西の2地域で捕獲されたアライグマおよび家庭飼育犬の血清を用いて顕微鏡下凝集試験(MAT)を行い、アライグマの腎皮質から抽出したDNAを用いて0mpL1-PCRを行った。その結果、5血清型標準株(Icterohaemorrhagiae、Canicola、Autumnalis、Hebdomadis、Australis)を抗原としたMATでは、アライグマ地域A:31/54(57.4%)、地域B:84/132(63.6%)、飼育犬地域A:36/86(41.9%)、地域B:29/47(61.7%)で陽性を示した。MAT陽性かつ最も高い抗体価を示した血清型は、両地域においてアライグマではhebdomadis、飼育犬ではicterohaemorrhagiaeであった。また、アライグマの腎皮質におけるOmpL1-PCRでは8/66(12.1%)で陽性を認めた。本研究では、野生アライグマがレプトスピラの保菌動物となっていることが明らかとなった。また、アライグマが犬レプトスピラ症の感染源となっている可能性を示唆する結果は認められなかったが、今後アライグマの生息地域の拡大により、人の生活環境への接触の機会が増すことでアライグマから犬や人への感染の危険性が高まると考えられ、更なる調査が必要であると考えられた。
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