研究概要 |
平成19年度は、パピオン犬に発生した小脳皮質abiotrophy (CCA)、神経軸索ジストロフィー(NAD)の合計4例について、各症例間の共通点や相違点を明確にするために、臨床データを比較・解析した。その結果、これら2つの神経変性疾患の臨床症状や画像診断所見については非常に類似しているものの、病理組織学的特徴が極めて異なり、CCAでは小脳プルキンエ細胞と顆粒細胞の重度の脱落を特徴とするのに対し、NADでは、これらの神経細胞の脱落所見は軽度である一方、軸索変性が著明であり、特に感覚神経路に多数の軸索球形成が認められた。これらのパピオン犬のCCAとNADについては、臨床的所見と基本的な病理所見をとりまとめ学術報告として、本年度中に既に公表をすませた(J. Vet. Med. Sci. 69: 1047-1052,2007, Nibe, K. et. al.)。また、4例中1例については、特にそのMRI画像上の特徴について検討した結果を海外の小動物臨床系学術雑誌に公表を済ませている(Small Animal Practice, 48:458-461,2007, Tamura S., et. al.)。現在、特にパピオン犬のNADにおける変性軸索内の凝集物に関する研究を実施しており、シナプス関連物質(シナプトフィシン等)、細胞骨格関連蛋白(リン酸化ニューロフィラメント、微小管関連蛋白、Tau蛋白、αシヌクレイン等)、およびカルシウム結合蛋白(カルバインディン、カルモジュリン、パラバルミン等)凝集の有無を免疫組織化学的に検討・解析している。その結果の一部は2008年3月の第145回日本獣医学会で公表した。現在その結果を学術雑誌に公表するため、学術論文として投稿準備中である。また変性軸索内の凝集物質の機能や組織内分布の特性より、イヌのNADにおける軸索傷害の発生機構を明確にするために、現在、カルシウム結合蛋白やシナプス関連タンパクに焦点を絞って研究を実施している。
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