平成21年度には、イヌの小脳皮質アビオトロフィー、神経軸索ジストロフィー、神経セロイド・リポフスチン症等の小脳変性(萎縮)を示す疾患複数例について、その小脳神経細胞脱落のメカニズムを解明する目的で、それぞれの症例の小脳組織を比較検討した。通常の組織検索では小脳細胞の脱落程度が疾患ごとに小脳虫部と片葉で明瞭な相違が存在することが明らかになった。また種々の特殊染色により、アポトーシス細胞(TUNEL法、活性型カスパーゼ3免疫染色等)の程度、星状膠細胞増殖(GFAP免疫染色)、小膠細胞/マクロファージ浸潤増殖(HLA-DR免疫染色)、およびT細胞浸潤(CD3免疫染色)の程度をそれぞれ評価した。その結果、小脳皮質アビオトロフィーの小脳では、カスパーゼ3陽性細胞が最も多く、セロイド・リポフスチン症では殆ど陽性細胞が観察されなかった。これに対し炎症性細胞であるT細胞浸潤や小膠細胞/マクロファージの浸潤増殖程度はセロイド・リポフスチン症で最も重度であり、小脳皮質アビオトロフィーでは最も軽度であった。神経軸索ジストロフィーの症例では、アポトーシスと炎症細胞浸潤程度のいずれもその他の2疾患の中間的数値を示した。この結果より、小脳皮質アビオトロフィーにおける小脳細胞脱落は主にアポトーシスにより生じており、セロイド・リポフスチン症における小脳細胞脱落の過程には炎症反応が深く関与することが示された。神経軸索ジストロフィーにおける小脳細胞の脱落には、アポトーシスの他、ネクローシス等の機構も複雑に関与すると予想される。これらの結果は日本獣医学会で口頭発表すると同時に、英文論文として既に取りまとめを行い、学術雑誌での公開のために既に投稿し現在審査中である。
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