成熟白内障を呈したイヌのレンズ上皮細胞の初代培養細胞にSV40T抗原をコードするプラスミドをトランスフェクションした。遺伝子導入群では活発な細胞増殖が確認された。非導入群では3回の継代後、細胞分裂を停止した。導入細胞群からシリンダー法により、最も増殖が盛んな細胞株(cdLEC)を樹立した。この細胞を基本的に1:20の割合で4日おきに継代し、現在まで150代以上にわたり、安定した増殖能の獲得が示された。レンズ上皮細胞では高グルタチオン濃度を維持するためにその基質の一つであるグルタミン酸の輸送が報告されている。イヌグルタミン輸送体(EAAT)5について、この細胞株を用いて、cDNA塩基配列を決定した。イヌEAAT5のcDNAは全長2497塩基からなり、うちアミノ酸にコードされる領域は1680塩基であった。これらはヒトやマウスと90%以上の相同性を持ち、アミノ酸のモチーフ配列箇所もよく保存されていた。抗ヒトEAAT5抗体を用いたウェスタンブトッロ解析で、cdLECおよび小脳で約60kDaのバンドが検出された。この細胞株はイヌレンズ上皮細胞の特徴をよく保存しており、今後この細胞株を用いることで、これまで量的な面で困難であったレンズ上皮細胞の生理学的機能検討が可能となった。レンズ上皮細胞株は現在に至ってもヒト胎児由来のものしかない。また、白内障を呈した個体からの株化は例がなく、本研究テーマで樹立したcdLEC株が今後白内障発症メカニズム解明に重要なツールになる可能性がある。
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