先行研究「コケ原糸体培養のミクロとマクロにおける環境保全への適用(基盤研究(C)平成17〜18年度)」において、コケ原糸体の液体培養による短糸状でのサスペンジョン培養の確立、短糸状原糸体を用いた原糸体付着シートの作成、原糸体からのサイトカイニンを用いた茎葉体芽分化誘導法の確立は達成されている。しかし、作成した原糸体シートをサイトカイニン処理し芽分化誘導を行っても、均質な芽分化が得られず、また分化した芽も茎葉体として成長せずに枯死するものが多いという問題が残されている。 サスペンジョン培養による原糸体の大量培養については、液体通気培養により原糸体細胞量の増加がより速くなることが分かった。また、ある程度の細胞量を持った原糸体小球をシート作成に用いることで、芽分化を容易にすることを考え、接種用原糸体小球の作成を96well plateを用いて震盪培養することで試みたが、液体培地の運動量が不足し、小球上の原糸体は得られなかった。 これまでは、原糸体での成長速度が早く、BAPによる芽分化誘導を行わない場合自発的な芽分化が起らず、原糸体として長く維持しやすいケヘチマゴケ(Pohlia flexuosa)を中心的な実験材料として研究を進めて来た。これまでは、原糸体培養が容易な種を用いて、原糸体を大量培養した上で芽分化を誘導すると言う戦略をとって来たが、現状ではケヘチマゴケで均質な芽分化を誘導したコケシートの作成が困難となっている。そこで、今年度はナガサキホウオウゴケ(Fissidens cristatus)のような、外性的な植物ホルモンによる誘導無しで芽分化を生じる、原糸体からの芽分化が容易な種を用いて、芽分化を抑制しながら原糸体の大量培養を行い、均一なコケシートの作成を目的に試験を進める。
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