研究概要 |
環境中に排出された環境汚染物質には、難分解陛、蓄積性が増すとされる塩素置換体となって存在しているものがあり、実際に、既にいくつかの塩素置換体が検出されている。これらの中で、これまで、エストロジェン(E2,E1)や多環芳香族炭化水素(PAHs)の塩素置換体について、エストロジェン活性、AhR活性について調べてきた。しかし、実際の遺伝子発現にどのように影響を及ぼすかについては、まだ十分に調べられていない。そこで、まず上記物質について、乳がん細胞MCF7を用いて、E2制御のPgR及びpS2、AhR制御のCyp1A1の発現レベルをReal-timePCRにより解析した。また、炎症疾患と関連しているとされるS100A8とS100A9遺伝子の発現についても調べてみた。さらに、パスウェイ解析を目的としたPCRアレイ(Super Array 社)を用いて、いくつかの遺伝子グループの発現解析を行うことにより新たな知見を得ることを試みた。 E2、E1では、PgR及びpS2の発現は上昇していたが、Cyp1A1は低下していた。また、4-C1E2,4-C1E1も同様の傾向であった。Benzo[a]pyrene(BaP)、6-C1BaP、benz[a]anthracene(BaA)、7-C1BaA、7,12-Cl2BaAでは、PgR及びpS2の発現は高濃度で認められた。一方、Cyp1A1の発現量は、いずれも高度に上昇していた。Phenanthrene(Phe)では、Cyp1A1の発現が、塩素付加数に伴って上昇した。Chrysene(Chry)の塩素誘導体において、Cyp1Alの発現は二塩素置換体でやや減少する傾向にあった。S100A8とA9遺伝子の発現については、いずれも顕著な変化は認められなかった。また、PCRアレイにより、発現レベルが、親物質と塩素置換体とで異なる遺伝子がいくつか認められた。
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