マウスと大腸菌のHsp70のC末端可変領域を識別する膜受容体タンパク質HSP-DDRを同定するために、光反応性架橋剤SBEDで修飾されたリガンドをP388D1細胞と反応させUV照射を行いHSP-DDRとHsp70を光架橋後、膜受容体を特異的にビオチン標識し、分子サイズ130~300kDaにかけて6種類の候補受容体を得てきた。非標識受容体の抽出を目指し、7回膜貫通型受容体の抽出に効果的な可溶化剤TM-PEKを用いた。その結果、ビオチン化Hsp70と非標識受容体との複合体を可溶化することに成功したが、2次元電気泳動において候補受容体の同定を試みたところ回収量に問題があった。そこで現在は、ファージディスプレイ法を併用することで遺伝子サイドからの候補受容体の同定も検討している。一方、本受容体が株化細胞だけでなくマウス生体内に存在するかについて調べた。マウス脾臓、消化管バイエル板と粘膜固有層から白血球を単離し、表面抗原を指標し各細胞群に染め分け、マウスHsp72と大腸菌DnaKとの結合の差異を比較した。その結果、B細胞ならびにマクロファージにおいて同様の識別が行なわれることを見出し、生体内においてもHsp70のC末端多様性の識別が関係していることを明らかにした。このHsp70のC末端多様性がリンパ球の分化に与える影響についても考察した。細胞磁気分離法により調製したCD4+CD62L+ナイーブT細胞を樹状細胞とHsp70抗原存在下にて培養し制御性T細胞への分化を調べたところ、DnaK刺激において転写因子Foxp3の発現が誘導されることを明らかにした。この結果は、生体防御系においてHsp70のC末端可変領域が生物間のシグナル授受に寄与することを意味している。
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