我々は、致死的な心血管イベントを引き起こす血管攣縮(血管異常収縮)の原因分子として、スフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を同定し、SPC/Fyn/Rhoキナーゼ系による病的シグナル伝達経路を明らかにした。さらに血管の異常収縮を特異的に抑制する物質として、魚油に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)を見出した。本研究では、血管の異常収縮において、シグナル伝達の反応の場と考えられる細胞膜上ドメイン「膜ラフト」との関連性を解明し、異常収縮を特異的に抑制する機能性食品素材を探索することを目標としている。 平成19-20年度は、上記の研究成果をふまえて、(1)血管異常収縮を抑制する新規物質の探索、(2)脂質膜とEPA関連物質の分子間相互作用解析、(3)膜ラフトの挙動解析条件の検討、を行ってきた。 平成21年度は、(1)スクリーニングでヒットした新規物質の絞り込みと濃度検討、(2)ハイブリッドリポソームを用いて、脂質二重膜と病的原因分子群の分子間相互作用解析および動力学解析、(3)最適化した条件を用いた膜ラフトの挙動解析、を行った。 結果(1):血管の正常収縮には影響を与えず、異常収縮のみを特異的に抑制する物質を探索した結果、数種類の脂肪酸類、ポリフェノール類、植物抽出物などから新規物質を見出し、最適濃度の検討を行った。 結果(2):ラフトのモデル膜(ハイブリッドリポソーム)を調製し、病的シグナル分子群との親和性を評価した。その結果、血管異常収縮を引き起こすSPCは、リポソーム膜中のコレステロールの濃度依存的に膜への親和性が増大し、さらに、スフィンゴ脂質の存在下で、膜との結合性が強くなる事を明らかにした。また、動力学解析の結果から、SPCは脂質膜に結合しやすく、一度結合したSPCは膜から離れにくいことも証明できた。 結果(3):走査型電子顕微鏡を用いて脂質膜の表面形状を観察したところ、膜ラフトの表面は、他の脂質膜表面に比べて、なだらかな構造をしていることを明らかにした。さらに、膜の最表面構造ならびに物性について検討するため、原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、膜ラフトの最表面は全体的になだらかで、その中に10-50nmの突出したドメインが存在することを明らかにした。
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