研究概要 |
研究初年度はNiを中心金属とした水素ガスを用いる還元反応を検討した。その結果,リン配位子の選択が重要であり,二座型のフェロセン系リン配位子ニッケルアセテートからなる有機金属錯体を用いることで,今までに例のない触媒的不斉水素化反応を実現することに成功した。とりわけ動的速度論分割を伴うα-アミノ-β-ケテエステル系の不斉水素化反応において,アンチ体のみを立体選択的に最高95%eeで得ることに成功した。本反応はC4位に芳香環をもつものに対して有効であり,我々がすでに見出しているIr系の水素化反応において問題となっていた電子吸引基を芳香環上にもつものに対しても,90%ee以上の立体選択性で反応が進行することを確認している。また本反応は芳香環上のニトロ基やエステル基,ハロゲンが存在しても,それらを損なうことなくケトンのみを環元することが可能である。水素圧に関しては100気圧で行っているが,5気圧の低水素条件においても反応速度の大幅な低下がみられるものの,反応が進行することを確認している。また興味深いことに事前の触媒調製を必要とすることなく,ニッケルアセテートとリン配位子,反応基質を加え,水素加圧するのみで立体選択性や収率を低下させることなく,水素加反応を行うことが可能である。その他の反応系に対する検討も同時に行っており,α-アミノケトンやエミナド,β-ケトエステルに対しも触媒的水素化反応が進行することを確認できた。来年度は反応機構の解明とともに,さらに有用な反応系の開拓を行う。
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