天然資源の少ない日本において、医薬品などの生物活性物質の開発は、日本を支える基幹産業の育成と発展に重要であるのみでなく、大きな社会的なニーズでもある。特に、実用的な医薬品供給の基盤技術となる有機合成は、近年の環境問題から指摘されるように、環境に調和適合した合成法に進化する必要がある。はじめに、共役オキシムエーテルのヒドロキシアルキル化反応を検討した結果、ボリルエナミンを経由したラジカル-イオン融合連続ラジカル型反応の開発に成功した。ラジカル-イオン連動反応機構は、先に調整したボリルエナミンと分子状酸素を反応させた場合にも同じ生成物が得られることから確認した。さらに、初年度から継続している研究の新たな展開を目指し、両末端に反応部位(異なる二つのラジカル受容体)を有する基質のラジカル付加-環化-捕捉反応を、様々なラジカル前駆体を用いて検討した。その結果、求核的なアルキルラジカルのみでなく、求電子的な性質を示すperfluoroalkylラジカルも利用できることが判明した。次に、昨年見出した光触媒酸化チタンを用いたカルボニル化合物の還元反応を検討した結果、芳香族ケトン類の還元反応が比較的高収率で進行することが判明した。これは、反応中間体として生成するケチルラジカルが、芳香環により安定化されるためだと考えられる。さらに、光触媒としてバナジウム酸ビスマス触媒を用いた場合、スーパーオキシドを選択的に与えることを見出した。この結果は、酸化チタンがスーパーオキシドとヒドロキシラジカルを非選択的に与えることと対照的である。また、歪み化合物ベンザインの高い反応性を利用し、歪みエネルギーを駆動力とした連続ラジカル反応開発を行うことを計画している。本年は、その前段階として、ベンザインとホルムアミドから生成する反応中間体を有機亜鉛試薬で捕捉することに成功した。
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