耐え難い苦痛を伴う癌が死因の上位を占める現在の日本においては、真に有効な制癌剤の開発は勿論のこと、患者の生活の質の向上につながる副作用の少ない鎮痛剤の開発が強く望まれている。我々は、高反応性化学種による有機分子の短工程高度官能基化を基盤として、抗腫瘍活性天然物(-)-agelastatin A、鎮痛活性先導化合物aphanorphineならびに誘導体の新規合成法を確立し、制癌と疼痛制御に資する優れた医薬資源を開拓するべく研究を行った。 その結果、昨年度のaphanorphineの全合成の成功に引き続き、本平成20年度の研究では、入手容易な炭化水素'シクロペンタジエン'から有望な制癌活性海洋産アルカロイド(-)-agelastatin Aを人工合成する効率的な方法を開発することに成功した。本合成経路の鍵は、炭素と水素のみからなるシクロペンタジエンに対して酸素および窒素原子を化学的に順次導入することにより、反応性の高いアジド中間体を調製し、その加熱によって複雑な骨格を一挙に組み上げることにある。高い反応性をもった分子の性質を利用するこの合成方法によって、有害な金属化合物を多用することなく入手容易な原料から(-)-agelastatin Aならびにその誘導体を簡便に供給し、特異な構造と抗腫瘍活性の関係を詳しく調べることが可能となった。
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