当研究室において細胞表層における複合糖質糖鎖の機能解明の一助として、下等動物より得られる糖脂質や糖タンパク質糖鎖の化学合成を目指してきた。合成化合物は均一構造を有しており、生命現象を分子レベルで解明する上で貢献でき、創薬への応用も期待できる。今年度は表題である『寄生・宿主相互作用解明を指向した糖鎖の化学合成』の一環として1.イヌ回虫由来糖タンパク質糖鎖の合成2.マンソン住血吸虫由来糖脂質の合成3.ブタ回虫由来糖脂質の合成を遂行した。1については、2MeFucα(1→2)4MeGalβ(1→3)GalNAcα1→構造を有する天然型三糖と、これらの部分構造又はモノメチル体である非天然型4種の計5種類の合成を完了した。現在、患者血清との免疫反応を調べ、これらの合成糖鎖の抗原性について検討している。2についてはマンソン住血吸虫より見出されたGalNAcβ1-4Glcという新規な糖鎖をコアとした二~八糖の糖脂質のうち、本年度は五~六糖の全合成並びに長鎖糖脂質の非還元末端部について合成した。今後、イヌ回虫同様住血吸虫症患者血清との免疫反応を調べ、これらの合成糖鎖の抗原性を調査する。3についてはブタ回虫より見出されたGlcNAcβ1-3Manβ1-4Glcをコア(arthro系列)とした糖脂質の非還元末端オリゴ糖に着目し、ブタ回虫感染患者とイヌ回虫(糖鎖の報告がなされていない)感染患者の判別を目的として五糖のオリゴ糖鎖を合成した。これは前年度、五糖誘導体の脱保護において効率よく目的糖鎖が得られなかったため、改良法を検討してきた。いずれも位置選択及び立体選択を念頭に置き、効率合成を目指した。なお、糖合成における鍵反応であるグリコシデーションによる糖伸長は、低収率の箇所もいくつか見られ改善が必要である。
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