金属はそれぞれが独自の特性を有し、従来困難であった様々な反応を触媒することは良く知られている。従って、それらの金属の特性を巧みに活用することが出来れば医薬品を始めとする有用生物活性化合物の効率的合成法の確立が可能となる。今年度の研究においては、有機合成化学において一般的に使用される金属であるルテニウム、パラジウムおよびコバルト等に焦点を絞り、それらの特性を活用しつつ全く新規な効率的合成法を開発しようと計画した。ルテニウム触媒を活用する合成として不飽和結合間で炭素-炭素結合を形成することが出来るオレフィンメタセシス反応を鍵反応とすることにした。本反応は最低2個の炭素単位を失うという欠点は持っているものの、一挙に2箇所で炭素-炭素結合が形成可能であり、また立体化学も制御可能しながら環形成が出来るという極めて魅力的な反応である。本反応を鍵反応として2つの5員複素環を有する極めて興味ある構造を有するアルカロイドであるnorpandamarilactonine A及びBのキラル合成に成功した。一方、コバルト錯体は一酸化炭素存在下にエンイン化合物と容易に反応し対応するシクロペンテノン誘導体を与える。また、本反応においては基質の適当な位置に不斉中心が存在するとその立体化学に依存して生成物中に新たに生成する不斉中心の立体化学が制御されるという利点が見られる。そこで、本反応を利用して鎮痛活性を有するアルカロイドである(-)-incarvillineや同属のアルカロイドである(+)-α-skytanthineの合成に成功した。最後に顕著な抗マラリヤ活性を示すcassiarin Aの合成において、パラジウム触媒を用いた薗頭反応と6-end-dig環化反応による複素環構築を2度繰り返すだけという簡易な経路を確立することに成功した。本合成は今後の新たな生物活性誘導体の探索に有用な手段を提供するものである。
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