本研究では、アミロイド線維に対して高い親和性を持つアゾ色素であるコンゴーレッド(CR)の共鳴ラマン散乱を用いて、タンパク質が細胞に結合している状態でアミロイド線維に変化する過程を追跡することが可能な新規手法の開発を目指した。19年度に行なった研究により、CRのラマンスペクトルの1400cm^<-1>付近に現れるダブレットピークの相対強度は、CRがアミロイド線維に結合することによって大きく変化することが分かっていた。このラマンダブレットの強度比は、脂質膜やアミロイド以外のタンパク質との結合によっては変化しないため、細胞に結合した状態でのタンパク質のアミロイド形成の追跡に適している可能性があった。 以上の知見を基礎として、20年度は、生きた細胞を用いて、細胞結合状態でのタンパク質のアミロイド形成追跡に挑戦した。アミロイドβペプチド(Aβ)共存下で培養したラット副腎褐色細胞腫由来PC12細胞をCRで染色し、細胞毎のラマンスペクトルを測定したところ、タンパク質や脂質などの細胞由来のラマンバンドに妨害されることなく、CRの共鳴ラマンスペクトルを得ることができた。CRのラマンダブレット強度比は、細胞の培養時間に依存して変化し、Aβがアミロイド線維を形成したことを示した。本研究で開発した手法を用いることにより、1個の細胞の膜表面でのアミロイド形成を観察することが初めて可能となった。今後、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症メカニズム解明のために、本手法は有用かつユニークな情報を与えると期待される。
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