膜蛋白質は、従来、界面活性剤で可溶化して構造生物学的解析が行われてきたが、界面活性剤による可溶化はしばしば膜蛋白質の失活につながる。そこで、我々の研究室では膜蛋白質をアフィニティービーズに固定化した状態で脂質二重膜中に再構成するBead-linked proteoliposome(BPL)を開発した。BPLとして調製した膜蛋白質複合体における相互作用界面残基は、当研究室で開発した転移交差飽和法により解析可能である。BPLを用いたNMRによる分子間相互作用解析には固体の共存によるスペクトルの低感度化・低分解能化力問題となっていたため、これまでに、マジック角回転によるスペクトルの高分解能化に成功していた。しかし、固定化担体として用いていたZn-NTAシリカビーズに対する蛋白質の非特異的吸着のため、固定化した蛋白質の活性低下や、液相に存在する蛋白質のNMRシグナルの広幅化・低感度化が問題となるだけでなく、結合界面以外にも交差飽和現象が観測されるという問題が生じた。 そこで、固定化担体を幅広く比較検討した結果、アミンカップリング反応により担体に固定化するCM基を表面にもつCM-シリカビーズを適用することにより、非特異吸着を軽減することに成功し、理論上最大の感度での測定が可能となった。次に、ユビキチン(Ub)と酵母Ub水酸化酵素(YUH)の相互作用系において、YUHをCMシリカビーズに固定化し、不均一系超分子を模倣した系を作成した。固定化したYUHは200μMであった。このYUH固定化Zn-NTAシリカビーズを均一2H15N標識したUhの溶液に懸濁し、MAS条件下で転移交差飽和法の測定を試みたところ、従来法では解析が困難であった固体と液体が共存した超分子系において、Ub上のYUH結合界面残基の同定に成功した。本手法は、膜蛋白質複合体における分子間相互作用解析に適用可能であり、今後、実際に膜蛋白質複合体に適用していく。
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