研究概要 |
本研究は「配位子間相互作用による核酸の塩基および高次構造の認識」を作業仮説として核酸の塩基および高次構造を特異的に認識する金属錯体をデザイン・開発し,この作業仮説をX線結晶構造解析および電子顕微鏡によるその場観察により実証することを目的としている。アデニン塩基を特異的に認識する金属錯体としデザイン・合成した[Rh_2(OAc)_4]を右巻A型DNAのd(GGTATACC)およびB型DNAのd(CGCGAATTCGCG),左巻Z型DNAのd(CGCGCG)と温度を変えて反応させ,Rh錯体がDNAの窒素原子に結合すると青緑色から紫色に変化することを指標にして結合の有無を観測した結果,Rh錯体が予測された塩基を認識すること,およびDNAの高次構造を認識することを実証した(一本鎖DNAを認識するが,右巻二本鎖DNAを認識しない)。またCD測定により[Rh_2(CONHCF_3)_4]が右巻の二本鎖poly d(G-C)には結合(認識)しないが,左巻の二本鎖poly d(G-C)に結合してらせん構造を安定化することを実証した。なお,グアニンなどオキソプリン塩基を特異的に認識する金属錯体としてtris(aminoethyl)amine金属錯体をデザイン・合成し、キサンチンおよびヒポキサンチン塩基との反応生成物のX線結晶構造解析により,配位子間相互作用によるオキソプリン塩基の特異的認識機構(作業仮説)を実証した。また, 電気泳動法により,[Rh_2(OAc)_4]がpUC19 plasmid-DNAに結合して閉環状から開環状構造に構造変化させることを観測した。これらの結果は,我々の作業仮説「配位子間相互作用による核酸の塩基および高次構造の認識」が,核酸と金属イオンとの相互作用の構造原理として有効であることを示しており,この構造原理は核酸と金属イオンとが関わる諸現象を分子レベルで理解するための基礎として重要である。
|