研究概要 |
ジルチアゼム塩酸塩(DTZ)を主薬とする長期徐放マトリックスシステムをモデル製剤として調製し製剤処方に内在する潜在構造を共分散構造分析(SEM)及びベイジアンネットワーク(BN)を用いて解析した。SEMは重回帰分析と因子分析を合わせた線形の多変量解析手法である。またBNはベイズ推定に基づく確率推論を発展させた潜在構造推定手法であり,複雑系の内部構造をネットワーク状に同定するとともに,内在因子の事前確率から製剤特性の事後確率を予測することができる。 モデル製剤の処方成分には,マトリックス内でポリイオンコンプレックスを形成して水不溶性の三次元網目構造を形成するカチオン性デキストラン(EA)及びアニオン性デキストラン(DS)を,また網目構造内で吸水してゲル化するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を選択した。混合系の実験計画に従いDTZ100mgを含有する質量250mgの徐放錠14種類を調製した。これらの錠剤からのDTZの溶出性を測定し,50%溶出時間と溶出曲線の類似度を求め製剤特性とした。またDSとEAの結合率,HPMCの粘度及びDTZとマトリックスとの結合率を測定し,これらを内在因子としてSEM及びBNによる解析を実施した。 SEM解析によるパス図の相関係数は低く,線形手法による潜在構造の分析は不可能であった。これに対しBNでは,処方因子-内在因子一製剤特性間の非線形な因果関係がBNモデルとして高精度に同定され,これより複雑な潜在構造を可視化することができた。これより製剤設計における各種因子間の因果関係を解明する上でBNの有用性が示された。
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