研究概要 |
本研究では,遺伝子導入効率を上昇させるために,核移行能がある新規ラクトース脂質を合成し,これまでのオリゴアルギニンPEG脂質と混合した脂質ナノ粒子からなる遺伝子導入ベクターの開発を目的とする。まず,遺伝子をコンパクトにし,細胞膜に作用する最適なオリゴアルギニン鎖長とPEGリンカー鎖長を有し,自己凝集するオリゴアルギニンPEG(2000)脂質と,ラクトースPEG(2000)脂質をそれぞれデザインし,合成した。次に,プラスミドDNAとデカアルギニンPEG脂質ベクターとの複合体の構造を物理化学的手法で調べた結果,脂質濃度が低いときにはかご状,高くなるとひも状構造体も作ることが明らかになった。培養細胞における遺伝子導入効率との関係を調べた結果,この2種類の構造体では細胞取り込み量はほぼ同じであったが,遺伝子導入効率はかご状構造のとき高くなった。この最適デカアルギニンPEG脂質濃度に対するラクトースPEG脂質の添加量,さらに添加する順序を変えてDNAとの複合体を調製して遺伝子導入効率を調べた結果,遺伝子発現活性はラクトースPEG脂質の添加によって低下した。これは,かご状構造を破壊するためと考えられる。そのため,糖修飾リポソームベクターも調製し,その遺伝子導入効率の増加を期待したが,現段階ではやや高くなる程度であった。今後は,さらにこれら2種類のナノ構造体の細胞内での取り込み機構とDNAの放出について,電子顕微鏡,蛍光顕微鏡を用いて詳細に検討する予定である。
|