アポEは、神経細胞でのコレステロール代謝恒常性維持に中心的役割を果たしているタンパク質である。本研究では、アポEアイソフォームの一つであるアポE4がアルツハイマー病発症を引き起こす分子機構の解明を目的として、アポEアイソフォームによる脳内コレステロール代謝調節異常を、アイソフォーム間でのコンフォメーション変化(構造異常)とそれによる機能異常(細胞膜脂質や細胞表面グリコサミノグリカンとの相互作用変化)に基づいて解析する。 本年度はまず、神経細胞毒性を示すことが報告されているC末端欠損アポE4変異体を作製し、それらの立体構造や水溶液中での会合構造、人工細胞膜に対する結合親和性等を野生型であるアポE3と比較評価した。その結果、C末端ヘリックス部位を段階的に欠損することで、水溶液中でのアポE分子の会合構造が破壊され、脂質膜結合が促進されることが明らかとなった。特にアポE4では、C末端アミノ酸273-299残基を削除することで完全に単量体化し、疎水性ヘリックス部位(アミノ酸261-272残基)の露出に伴って非常に強い脂質結合性を示した。さらに、アポE4に特異的なN末-C末ドメイン間の塩橋形成による相互作用(ドメイン間相互作用)がC末ドメイン構造に与える影響を調査するため、C末ドメインのみにトリプトファンを有する単一トリプトファン変異体W@264を作製し、トリプトファン蛍光の環境依存性やダイナミクスを詳細に解析した。その結果、アポE4のC末ドメインは、アポE3、に比べてより水相に露出した環境にあることが明らかとなり、その会合構造との関連が示唆された。
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