アポEは、神経細胞でのコレステロール代謝恒常性維持に中心的役割を果たしているタンパク質である。本研究では、アポEアイソフォームの一つであるアポE4がアルツハイマー病発症を引き起こす分子機構の解明を目的として、アポEアイソフォームによる脳内コレステロール代謝調節異常を、アイソフォーム間での構造変化とそれによる細胞膜脂質や細胞表面グリコサミノグリカン(GAG)との相互作用変化に基づいて解析する。 平成20年度は、前年までに設計・作製したアポEアイソフォーム変異体の機能評価を中心に研究を展開した。C末端部位を段階的に欠損したアポE3及びE4変異体apoEΔ273-299、Δ261-299、Δ251-299などの細胞膜脂質粒子やヘパラン硫酸・コンドロイチン硫酸などへの結合過程の速度論的ならびに熱力学的解析を行ったところ、アミノ酸273-299残基部位はタンパク質高次会合状態を調節することで、また260-272残基部位は強い疎水性相互作用を介して、それぞれアポEのGAG結合能並びに脂質膜可溶化能にとって重要な部位であることが明らかとなった。また、マウス神経培養細胞からの脂質搬出能をアポEアイソフォーム及びそのC末欠損変異体間で比較評価したところ、中枢神経系でのアポEの脂質輸送機能にとってN末ドメイン間のジスルフィド結合を介した多量体化が重要であり、この際、多量体化によってN末ドメインを介したGAG結合性が著しく増強されることを見出した。以上の結果から、アポE4アイソフォームによる脳内脂質輸送機能の異常は、N末ドメイン多量体化能の欠損並びにC末ドメイン会合性の低下による細胞表面GAGとの相互作用異常などが原因であることが示唆された。
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