本研究では、Rothmund-Thomson症候群の原因遺伝子産物RecQL4の遺伝情報安定性維持機構への関与について生化学的および細胞生物学的解析を進めることを目的とする。生化学的解析としては、Xenopus卵抽出液中の精子核クロマチンに制限酵素EcoRIにより誘導されるDNA二本鎖切断(DSB)に応じてRecQL4がクロマチン画分に蓄積したことより、RecQL4がDSB修復機構に関与している可能性を示した。このDSBに応じたRecQL4のクロマチン結合は一本鎖DNA結合タンパク質RPAに依存していた。さらに、DSBの指標となるリン酸化型ヒストンH2AX(γH2AX)の減少を検出することによりDSB修復効率について検討した結果、RecQL4免疫除去卵抽出液を用いた場合にγH2AXの減少の顕著な遅れが観察された。同様に、siRNAによりRecQL4の発現を抑制した培養細胞にDNA二本鎖切断を誘発するzeosinを作用させたところ、γH2AXの生成が亢進することが示された。そこで、緑色蛍光タンパク質を融合したRecQL4を細胞内に発現させた後、レーザーによって核内の特定の部位にDSBを誘発し、RecQL4の動態について検討した。その結果、RecQL4がDSB部位にきわめて速やかに集合し解離する一過性の挙動を示すこと、このRecQL4のクロマチン結合にはポリADPリボシルポリメラーゼの活性が必要であること、この挙動にはRecQL4のN末端側に位置する領域が重要な役割を果たすことが認められた。以上より、RecQL4は、DSBの修復においてポリADPリボシルポリメラーゼの下流で機能することが示唆された。
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