研究概要 |
脳は血液脳関門(BBB)によって体循環から隔離されており,独自のコレステロールde novo合成経路が発達しており,脳独自のコレステロール代謝系が存在する。しかし,アルツハイマー病発症と発症前高コレステロール血症とに有意な相関関係があることなどから,血液循環系コレステロール代謝と中枢神経系コレステロール代謝が関係あると考えられている。しかし,スタチン服用ではアルツハイマー病発症頻度は下げることはできないといった,相反する報告がされている。このように、血中コレステロールと脳内コレステロールの関係が定まらない理由として、脳内コレステロール代謝に関する情報が極めて少なく、コレステロール運搬経路におけるBBBの役割が明らかになっていないことがあげられる。本研究では高コレステロール食給餌マウスを用いて脳内で中性コレステロールエステラーゼが関与するコレステロール代謝機構を明らかにするとともに、血中コレステロール値がBBBを介して脳のコレステロールの代謝にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを研究目的とした。 本年度の成果として、大きく三つある。脳の中性コレステロールエステラーゼ活性はミエリンに分布すると報告されているが、脳の他の細胞にも本酵素活性は存在し、ミエリンの酵素活性に比べて高い値を示すことがわかった。二つ目は、野生型マウスに高コレステロール食を給餌するとBBBを通らないとされているプローブが、脳に到達することが明らかになった。このことは、高コレステロール血症が脳に何らかの障害を与える可能性を示し、現在論文をまとめている。三つ目は昨年度作成に成功した中性コレステロールエステラーゼ過剰発現マウスの2ラインが確立され、飼育数を拡大し、コレステロール食給餌に対する体重、血清中のコレステロール値、脳で発現しているmRNAの相異に関するデータを得た。
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