研究概要 |
Src型チロシンキナーゼは、細胞質で生合成されるが、N末端脂質修飾によって細胞膜に係留し、受容体からのシグナルを伝達し、増殖・分化・運動・生存などに深く関与する。Src型キナーゼは8種類のメンバーから成り、細胞表面膜局在の他に、リソソームとゴルジ体や核内にも存在するが、細胞内輸送選別機構や細胞膜直下以外での機能は殆ど明らかでない。 本研究では、各Src型キナーゼメンバーのオルガネラ選択的な細胞内輸送経路の分子機構を調べた。まず、c-SrcとLynは輸送経路が異なり、細胞表面膜での貯留状態に差異があるので、細胞膜表面でもc-SrcとLynの局在差異があるかどうか調べたところ、c-Srcと異なりLynはcortical actin capと共局在しており、cortical actin capはチロシンリン酸化シグナリングのプラットフォームになることが分かった。次に、Src型チロシンキナーゼc-Src,Lyn,c-Yes,Fynは、c-Src型(パルミチン酸0本)・Lyn型(パルミチン酸1本)・Fyn型(パルミチン酸2本)に分類され、細胞内でそれぞれ異なる動きをして異なる場所に存在することが分かり、パルミチン酸付加数は輸送経路変換の指標になることを示した。そして、Lynの核局在は脂質修飾を受ける前に核膜孔を通過して核内移行し、エクスポーチンによりサイトソルヘ排出され核内Lynの量を適正に保っていた。Lynキナーゼ活性抑制により、Lynの核内量が増加することも判明した。更に、増殖因子刺激時、Src型チロシンキナーゼによる核内蛋白質のチロシンリン酸化の程度とユークロマチン化/ヘテロクロマチン化の程度と正の相関関係があること、しかも、Src型チロシンキナーゼは大部分がユークロマチン領域に局在していた。 従って、Src型チロシンキナーゼの時空間的局在解析は、細胞内局在特異的な阻害剤の開発へ向けて新たなコンセプトを提供することが可能になるかもしれない。
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