研究概要 |
細胞膜糖タンパク質に結合したN-型糖鎖は、細胞の癌化に伴って著しく構造が変化し、癌細胞の腫瘍形成や転移に関わっている。我々は、細胞の癌化で著しく発現が変化するβ-1,4-ガラクトース転移酵素(β-1,4-GalT)IIやV遺伝子の発現を制御して、癌細胞の増殖や腫瘍形成を抑制できることを見出した。本研究では、細胞の癌化に伴う細胞膜糖タンパク質糖鎖のガラクトシル化の変化の有無と、マウスβ-1,4-GalT II及びV遺伝子の転写制御機構を解析し、両遺伝子の発現を制御する転写因子の同定を試みた。β-1,4-ガラクトース残基と結合するRCA-Iを用いたレクチンプロット解析の結果、マウス線維芽細胞に比べて、癌化した細胞では幾つかの糖タンパク質でRCA-1との結合性が増大していた。従って、細胞の癌化に伴って糖鎖のガラクトシル化は亢進すると考えられた。マウスβ-1,4-GalT II遺伝子の転写制御機構を解析するために、PCR法によりマウスゲノムDNAからこの遺伝子の5'-上流を単離し、塩基配列を決定した。次に、ルシフェラーゼ遺伝子に様々な長さの5'-上流領域を繋いだプラスミドを作製し、種々のマウス線維芽細胞を用いてルシフェラーゼアッセイを行なった。その結果、プロモーター活性は開始コドンから-247〜-1の領域に検出された。この領域をビオチン化し、これをマウス線維芽細胞NIH3T3の細胞溶解液と振盪した後に、ストレプトアビジンビーズを用いて、この領域と相互作用する転写因子を単離した。現在、MALDI-TOF質量分析によりタンパク質を同定中である。また、マウスβ-1,4-GalT V遺伝子についても同様に解析中である。本研究から、細胞の癌化に伴う糖鎖のガラクトシル化と、β-1,4-GalT II遺伝子の転写制御機構の一端が初めて明らかになった。
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