研究概要 |
細胞膜糖タンパク質に結合したN-型糖鎖は細胞の癌化に伴って著しく構造が変化し、癌細胞の腫瘍形成や転移に関わっている。我々は、細胞の癌化に伴って著しく発現が変化するβ-1, 4-ガラクトース転移酵素(β-1, 4-GalT) IIやV遺伝子の発現を制御して、癌細胞の増殖や腫瘍形成を抑制できることを見出した。本研究では、マウスβ-1, 4-GalT IIやV遺伝子の発現を制御する転写因子の同定、及び転写因子を用いて癌細胞の糖鎖のガラクトシル化を制御し、癌細胞の悪性形質の抑制が可能かどうかを試みた。前年度に同定したマウスβ-1, 4-GalT II遺伝子のプロモーター領域と相互作用する分子を、ビオチン化したプロモーター領域を用いたアフィニティー精製により複数単離した。MALDI-TOF質量分析により、分子量28Kの分子はsplicing factor、分子量32Kの分子はCH-rich interacting match of PLAG1、分子量33Kの分子はhnRNP A2/B1、及び分子量58Kの分子はnovel zinc finger proteinと同定した。この中で、前2者はRNAのスプライシングに関わる分子であるが、後2者は分子内にzinc finger motifを有する分子であり、β-1, 4-GalT II遺伝子の発現を制御する転写因子である可能性が考えられる。一方、マウスβ-1, 4-GalT V遺伝子のプロモーター領域には複数のSp1結合部位が存在し、ヒト遺伝子の場合と同様にSp1で制御されている可能性が考えられた。Sp1は、様々な癌細胞で発現が増大することが報告されている。そこで、ヒト肺癌細胞においてRNA干渉法によりSp1の発現をノックダウンすると糖鎖のガラクトシル化が低下し、in vitroでの増殖や足場非依存的増殖能が抑制された。本研究から、転写因子の発現を制御することで糖鎖のガラクトシル化を制御し、癌細胞の悪性形質を抑制できる可能性が示唆された。
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