リン脂質の代謝調節に関する研究:現在、ホスファチジルセリン(PS)合成酵素1は、そのアミノ酸配列から、小胞体膜を複数回(9ないし10回)貫通する膜酵素と推定されているが、実際の生体膜への挿入様式(膜トポロジー)は不明である。膜トポロジー解析ソフトの一つによりアミノ酸配列から予測されたPS合成酵素1の膜トポロジーでは、我々がこれまで同定した酵素活性に関与するアミノ酸残基は全て小胞体膜脂質二重層の中央から内層に配置され、一方、活性制御に関与するアミノ酸残基は全て小胞体膜の外側(細胞質側)に配置されることになる。このことはPS合成酵素1が、小胞体細胞質側でPSの量を検知し、その必要に応じて小胞体内腔側でPSを合成するのではないかと想像させる魅力的な立体配置である。そこで本研究では、この可能性を検証する目的で、PS合成酵素1の膜トポロジー決定を試みている。本年度は、システインスキャンニンング法による膜トポロジーの決定に必要なPS合成酵素1のシステインレス変異体の作成とその性状解析を行った。 リン脂質の細胞内輸送に関する研究:PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送には、ミトコンドリアと接触している小胞体の特殊な膜領域(MAM)、細胞質タンパク質S100B、ミトコンドリア膜タンパク質MSBP1が関与するものと考えられている。そこで、PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送機構を明らかにする目的で、S100BあるいはMSBP1と相互作用するタンパク質をイーストTwo Hybrid法により検索した。その結果、MSBP1と相互作用する数種類のタンパク質の同定に成功した。
|