核内受容体CARは、CYP2B、UGT1A1等の薬物代謝酵素/トランスポーター遺伝子転写に中心的役割を演じている細胞内因子である。我々はCARの検出が困難であると報告されている培養細胞を用い、CARの検出を試み、CARの発現レベルが増殖期に低いが、G1期に移行すると発現が増大することを見いだしている。本研究では細胞周期に依存したCARの発現調節機構とその新規な役割について解析した。ヒト肝癌由来HepG2細胞および大腸癌由来SW480細胞の細胞周期を同調させ、各細胞周期におけるCARmRNA、蛋白質発現レベルの変動を細胞周期関連因子と共に、リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング法を用いて解析した。細胞周期に依存したCARの細胞内局在性は共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析した。細胞周期分析はフローサイトメトリーを使用した。Thymidine block法を用いて細胞周期をS期に同調させた後、細胞を増殖させ、経時的にCARの蛋白質発現レベルを解析した。その結果、CARの発現がS-M期にかけて低下し、G1期早期に顕著に増加することを認めた。細胞周期調節因子CDKの各種阻害薬によるCAR発現レベルへの影響を解析したところ、CDK4の阻害によってCARmRNA並びに蛋白質の発現レベルが顕著に減少した。CDK4siRNAを用いてCDK4をノックダウンすると、CARmRNAおよび蛋白質の有意な抑制が認められ、CAR発現抑制と相関して、細胞増殖調節因子p53の作用を抑制するMDM2の発現レベルの抑制が認められた。これらの結果から、細胞周期を調節するCDK4シグナルによってCARの発現が制御されG1期早期に発現すること、CARが薬物代謝酵素だけでなく細胞増殖関連因子の転写調節にも深く関わっている可能性が示された。
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