これまでに脂質メディエーターであるプロスタグランジンやペプチドメディエーターであるキニンといった血管作動性オータコイドが、内因性血管新生調節物質としての作用を有することを報告してきた。そこでこれらのオータコイドによる血管新生の調節を介して、血管構築の破綻と細胞の異常増殖を伴う線維症を制御できるか否かについて追及する。その第一段階として、オータコイドの線維症における関与を検討した。膠原病は複数の臓器が線維化などの多臓器障害を生じる自己免疫性疾患である。膠原病疾患の一つである関節リウマチは、主に手足の関節が侵され、これにより関節痛、関節の変形を生じ、しばしば血管、心臓、肺、皮膚、筋肉といった全身臓器にも線維化などの障害が及ぶ。従って、急性期で局所の障害を抑制することは、全身臓器への障害の波及を軽減することにつながる可能性が推定される。そこで、関節リウマチ患者におけるアラキドン酸代謝物あるリポキシンの関与に着目した。リポキシンは抗炎症性のアラキドン酸代謝物として近年見出され、その生理作用は、Gタンパク共役7回膜貫通型受容体を介して発揮される。リポキシンA_4量をその特異的ELISAで定量した結果、関節リウマチ患者の滑液中では、血管新生誘導因子であるとともに細胞増殖因子であるプロスタグランジンE_2の産生と相関してリポキシンA_4が産生されていることが示された。さらに滑膜組織では、リポキシンA_4受容体の発現も認められた。すなわち関節リウマチ患者の病態部位におけるリポキシンA_4のシグナルが、血管新生や滑膜細胞の増殖を制御している可能性が示唆された。
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