平成19年度は脂質メディエーターである炎症性プロスタグランジンと抗炎症性リポキシンの関節リウマチにおける産生と、血管新生や滑膜細胞の増殖に対する役割について検討した。今年度は引き続き、粘膜の損傷による創傷治癒、さらには組織の線維化とオータコイドの関与について、特に神経性メディエーターに焦点を絞り検討した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は、前駆体の遺伝子産物から切り出される神経性ペプチドである。中枢や末梢組織に広く分布し、求心性ニューロンにおいて侵襲に対して防御的な役割を演じる。 そこで内因性のCGRPが、エタノールや酢酸で誘発した胃粘膜の損傷や潰瘍に対してどのような作用を及ぼしているのかを検討した。in vivo麻酔下マウスの胃を50%エタノールで灌流すると胃粘膜障害を生じる。この障害は、内因性CGRPを遊離させるカプサイシンや1M NaClの同時灌流処置により用量依存的に軽減された。この時胃内のCGRP量は増加していた。 またCGRPノックアウトマウスでは野生型に比して、酢酸誘発胃潰瘍における障害の治癒が顕著に遅延していた。一方で1M NaClの同時灌流による50%エタノール胃粘膜損傷は、CGRPノックアウトマウスで消失した。野生型マウスでは胃粘膜障害に続いて、創傷治癒の過程として潰瘍基部に肉芽や新生血管の形成を認めたが、CGRPノックアウトマウスではこれらの修復現象は乏しかった。これらの結果から組織侵襲から組織修復における生体防衛に、CGRPといった神経性ペプチドが関与することが判明した。
|