研究概要 |
本研究では,がんの浸潤・転移の素過程におけるα3β1インテグリンの役割について検討した。肝細胞癌で高発現するα3β1インテグリンと細胞の運動性・浸潤性との関連について,α3インテグリン陰性の肝癌HepG2細胞にcDNA導入法によりα3β1インテグリンを強制発現させ,細胞外マトリックスへの接着性,運動性,浸潤性などの変化を解析し下記の結果を得た。 (1)α3インテグリン強制発現株の作成:α3A鎖およびα3B鎖のcDNAをリポフェクション法によりHepG2細胞に導入し,安定発現株(HepG2AおよびHepG2B)を樹立した。フローサイトメトリー法および免疫沈降法により,両細胞で同程度のα3鎖の発現が認められ,いずれもβ1鎖と会合していることが確認された。 (2)マトリックスに対する接着:ラミニン5,フィプロネクチン(FN),あるいはマトリゲル(MG)に対する接着実験を行ったところ,HepG2AおよびHepG2Bは親株に比べ,ラミニン5への接着率が高く,抗α3抗体の添加により抑制された。MGおよびFNに対する接着は3者間で有意差が認められなかった。 (3)ラミニン5をコートしたプレートでの細胞運動性:単層培養した細胞に対しscratch wound法により運動能を評価した。その結果,ラミニン5をコートしたプレートではHepG2AおよびHepG2Bが親株に比べ運動性が高いことが示された。 (4)ボイデンチャンバー法による細胞浸潤実験:チャンバーの上室と下室を仕切る膜をラミニン5を含むマトリゲルでコートした場合に,HepG2AおよびHepG2Bは親株に比べ,下室への移動細胞数が多く,これは抗α3抗体により抑制された。 以上の結果より,肝細胞癌でのα3β1インテグリンの発現の上昇が,浸潤・転移能を高める一因となることが推測された。
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