研究概要 |
本研究は、研究代表者が過去に発見したフィセチン(天然に存在するフラボノイドの一種)の記憶増強作用をさらに詳細に解析し、記憶障害を主症状とする認知症の新しい治療薬の創出につなげることを目的とするものである。課題の2年目にあたる平成20年度では、まず麻酔ラットを用いた電気生理実験を行い、経口投与されたフィセチンが海馬の機能におよぼす影響を検討した。5〜25mg/kgのフィセチンをラットに経口投与し海馬興奮性シナプス電位を観察したところ、通常のシナプス伝達に変化は認められなかったが、高頻度刺激適用によるLTPの誘導が有意に促進された。有効用量は10〜25mg/kgであり、以前の行動実験で記憶向上作用が認められた経口投与用量と一致していた。また昨年度の研究結果からフィセチンは情報伝達分子ERKを活性化することが示されたので、ERK活性化の阻害薬U0126を脳室内投与したところ、経口投与されたフィセチンのLTP促進効果が消失した。この結果から、フィセチンは消化管から吸収されて脳に移行し海馬のERK活性化を介して記憶増強作用を発揮すると考えられた。次いで、フィセチンよりも高活性の記憶増強化合物を創出するために、培養神経細胞に幾つかの入手可能なフィセチン類縁化合物を与え、ERK活性化を指標にした構造活性研究を行った。その結果、フィセチンのフラボン構造A環7位を欠いた化合物(3,3',4'-trihydroxyflavone)とフィセチンよりもB環に水酸基が多い化合物(3',4',5'-trihydroxyflavone)がフィセチンより強力にERKを活性化することが明らかとなった。今後は、この新知見に基づいて、A環7位に新たな官能基がつきB環の水酸基の数および配置が異なる化合物について検討し、高活性の記憶増強化合物の創製をめざしたい。
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